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広島高等裁判所 昭和57年(ラ)13号 決定

抗告人 木村弘 外五名

相手方 木村隆

主文

一  原審判を取消す。

二  本件を広島家庭裁判所へ差戻す。

理由

一  抗告人らの即時抗告の趣旨は、主文と同旨の裁判を求めるというにあり、その理由は別紙一抗告理由書及び別紙二、三の準備書面記載のとおりである。

二  一件記録によると、本件は、調停不調により審判に移行した被相続人木村民次郎(昭和四九年八月一二日死亡)の遺産分割事件であつて、その相続人は同人の妻抗告人木村房江(法定相続分三分の一)、長男相手方木村隆(同九分の一)二男抗告人木村弘(同)、長女同沖田富久子(同)、二女同河村ナミエ(同)、三女同村井カズエ(同)及び四女同井土順子(同)の七名であるところ、原審判は、被相続人の遺産を同審判別紙第1、第2物件目録記載の各不動産であるとし、これを広島国税局発表の「相続税財産評価基準」に従い、それぞれの不動産の固定資産税評価額に、地目ごとに定められた一定の評価倍率を乗ずる方法(なお、保安林については更に同基準所定の控除割合の平均値〇・四七を乗ずる。)によつて評価し、その評価額を相続開始時において合計一九六万六七六八円、分割時において合計三〇八万〇〇二〇円とそれぞれ算定し、更に特別受益として、相手方木村隆について原審判別紙第3物件目録1ないし12の不動産(相続開始時における評価額は合計六六万八四八一円、評価方法は前記したところと同じである。)の、抗告人木村弘について同目録13、14の不動産(同じく評価額合計は八万四一一六円)の、同木村房江について同目録15の不動産(同じく評価額は一二万二一二〇円)の各生前贈与を認めた上、相手方木村隆についてのみ遺産の維持について特別の寄与をした者としてその持戻義務を否定し、以上の判断を基礎として、相手方木村隆に対しては、被相続人の長男であり、家業である農業の後継者としての生計を維持するために必要なものとして前記第1物件目録記載の不動産を単独取得させ、同人が自己の相続分を超えて右財産を取得することとなる代償としてその超過価額(抗告人木村弘に対し一三万八一七一円、同木村房江に五二万八八八四円、その他の抗告人らに対し各二一万二〇四四円及びこれらに対する原審判確定の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員)を他の相続人らに対して支払うべきものとし、前記第2物件目録記載の不動産については他の相続人らに共有取得(抗告人木村弘の持分一七二万五三二三分の一五万七三二九、同木村房江の持分一七二万五三二三分の六〇万二二一四、その他の抗告人らの持分各自一七二万五三二三分の二四万一四四五)させるとする分割方法を定めたものである。

三  原審判が本件遺産の価額を評価する方法として広島国税局発表の「相続税財産評価基準」による方法を採用したことは前記のとおりであるところ、右の方法が遺産評価に当たり採用し得る一つの方法であることは首肯し得るにしても、その前提となる固定資産税評価額が当該不動産の客観的価値を必ずしも正確に反映しないことがあること、したがつて、これに一定の評価倍率を乗ずることによつても、なお同様の問題を生じ得るものであることを考慮し、右方法を採用するに当つては、これに因つたときに果して共同相続人相互間の公平を実質的に確保できるか否かを慎重に検討することを要するものというべきである。特に本件のように遺産分割の方法として、現物分割によることなく、ある相続人にその相続分を超える不動産を単独取得させ、その超過部分につき他の相続人に対し代償金支払債務を負担させる方法を採ることが考慮される事案にあつては、この要請は一層強いものといわなければならない。

ところで、抗告人ら提出にかかる甲第四号証ないし第一一号証によると、広島県が山県郡○○町○○地区内(本件遺産はいずれもこの地区内に所在する。)において施工する県道○○○○○線道路特殊改良工事のため行なわれた同地区内の土地の評価額(昭和五六年一二月一八日、これは原審判の遺産分割時に近接する時期である。)によると、各一平方メートルに当たり宅地は三五七〇円、田は一六〇〇円、畑は一〇七〇円、山林及び原野は三〇〇円とされているものであり、これによると前記第2物件目録6の土地の評価額は一七万六〇〇〇円(原審判による分割時の評価額は一万八〇五五円)、同7の土地の評価額は九三万九二〇〇円(同九万六三五二円)、第3物件目録15の土地の評価額は一六六万五六〇〇円(原審判による相続開始時の評価額は一二万二一二〇円)と評価されることになる。この評価は公共の工事に伴いなされたものであつて、それなりの合理性を有するものと推認されるところ、この評価が本件遺産全体についても採用し得るとするならば、原審判における評価額との差は顕著であつて看過し難いものといわざるを得ないけれども、他方右の評価はその目的との関連で県道周辺の土地価額の実勢を示すにとどまるものといえなくもなく(現に、本件記録中の公図と対比すると、具体的評価額を摘記した前記土地は、いずれも県道に近接した土地である。)、そのまま本件遺産全体に及ぼすことができるものかどうかはなお検討の余地がある。

右によると、本件遺産の評価額について原審判の認定の合理性を疑うに足りる有力な資料が存するものということができるから、この状態のまま原審判の前記評価方法によることは相当でなく、更に前記道路改良工事に伴う評価を吟味し、あるいは鑑定等然るべき方法を採るなどして本件遺産の公正な評価を行う必要があるというべきである。

論旨は右の意味において理由がある。

四  次に、原審判が、相手方木村隆については遺産の維持について特別の寄与を認めて被相続人からの生前贈与についての持戻義務を否定しながら、抗告人木村房江にはその持戻 義務を肯定する判断をくだしたのは前示のとおりである。

記録中に顕れた関係資料を総合すると、相手方木村隆については同人が木村家の長男として永年農業に従事し、遺産の維持、管理について特別の寄与をしたことは優に認めることができるから、同人が得た生前贈与についての持戻義務を否定した原審の判断は是認するに足り、これについての抗告人らの主張は採用することができない(なお、抗告人らは、現に相手方木村隆の所有名義となつている山県郡○○町大字○○字○○○○×××番×山林一一四七四平方メートルを取得したことが特別受益に該当することを前提として、同人に対する持戻義務を否定する必要はないと主張するが、抗告人らの主張自体によつても右不動産が被相続人から相手方木村隆に対してなされた生前贈与でないことは明らかであるからこれを特別受益とみる余地はないものというべきである。)。

しかしながら、抗告人木村房江についての持戻義務を肯定した原審判の判断をそのまま支持することはできない。すなわち、記録中の関係資料によると、同女もまた被相続人の配偶者として永年家業に従事し、更には被相続人が病に倒れてから一〇年以上にわたつて同人の療養看護に尽くしたものであつて、遺産の維持に一定の貢献のあつたことが窺えないではなく、右の貢献をもつてなお配偶者としての通常の寄与にとどまり特別の寄与には当らないと断定するにはなお審理の必要があるというべきである。のみならず、抗告人らが提出した甲第二号証が被相続人の作成にかかるものであり、同人の真意を伝えているものであるとするならば、同人が同女に対し持戻義務を免除する意思を有していたと認定する余地もないとはいえない。

したがつて、右の点を黙過して原審判の前記判断を維持するのは相当でなく、これらについてなお審理を尽くす必要があると考える。

論旨は右の限度で理由がある。

五  なお、抗告人らは、前記甲第二号証を援用して、被相続人の意思が妻である抗告人木村房江に遺産の三分の二を取得させるにあつたとし、右甲第二号証の遺言書としての有効性についての判断も含めて審理する必要があると主張するが、甲第二号証の体裁からしてこれを法定の要式を備えた遺言書と認める余地はないといわざるを得ないから、論旨は理由がなく採用することができない(もつとも、甲第二号証が被相続人の作成にかかるものであるとすれば、遺産分割に当つて考慮されるべき一資料としての価値は否定できないから、原審において、右の点の審理もなされることが望ましい。)。

六  以上の次第で本件抗告は理由があり、右の諸点についてなお審理を尽くした上、改めて一切の事情を考慮して遺産分割の方法を定めるのが相当である。

よつて、家事審判規則一九条一項により原審判を取消し、事件を広島家庭裁判所に差戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 竹村壽 裁判官 高木積夫 田中壮太)

(別紙一)

一、(原審判には遺産の評価についての審理不尽、事実誤認、理由不備がある。)

1 本件遺産分割において相続財産となつている不動産について、原審はその評価を不動産鑑定士の正式の鑑定によらずして固定資産税評価額に一定倍率を乗じるという方式で評価している。

しかし本件相続財産となつている不動産の時価は、評価証明書の額の一〇倍以上のものであつて、原審においてなされた評価は余りにも低額である。

そもそも不動産(就中土地)の評価については様々な評価方法があり、おおむねいわゆる固定資産税評価額、相続税財産評価額ないし路線価、公示価格、時価とに分れるが、あくまでも遺産分割に当つては、分割時の時価を基準として判断するのがこれまでの通例である。そしてその評価基準が様々であるところから、裁判所が命じた鑑定士の客観的評価により判断されているのである。

特に本件原審審判のように、相続人の中の一人に一定の不動産を単独取得させ(原審では審判書第一物件目録記載の不動産が相手方の単独所有となつている)、その代償として他の相続人らに対して金員の支払を命じている様な場合は、不動産の評価が客観的になされていない場合(本件では不当に安い評価である)、金銭支払を受ける相続人らはいたずらに不利な扱いをなされることになる。現に本件原審の分割方法では、申立人らの金銭取得分が余りに低額となつており不当な扱いを受けている。

2 更に原審は、審判書別紙第1物件目録3、4及び第2物件目録、4、8、10、12、14記載の各不動産については、昭和「五〇年までは国土調査施行以前の固定資産税評価額を基礎として全町課税を行なつていた関係上」右「各不動産の相続開始時(昭和四九年)における同評価額が課税台帳に登録されていない」との理由で「付近の状況類似の他の本件遺産の同評価額を参考にして評価した」としているが、右の様な事情があれば尚更、客観的な不動産鑑定士による鑑定評価がなされるべきであつたところである。

又そもそも参考にしたものが、どの程度客観的に時価を表しているものか、又どの様な方法で参考にしたのかについての理由も明らかでない。

3 以上の様な次第で本件原審には、遺産の評価について審理不尽、事実誤認があり、又前記のとおりの理由不備がある。

尚原審記録を見ても、相続人らがあえて裁判所での不動産鑑定土の鑑定を拒否した事実はないことを付言する。

二、(原審判には特別受益についての判断について事実誤認及び審理不尽、理由不備がある。)

1 原審判は、審判書別紙第3目録1ないし12の土地について、被相続人から相手方への生前贈与を認めたうえ、右は相手方が「永年にわたり被相続人と共に又はその病臥後はこれに代り一家の支柱として遺産の維持に関し特別の寄与をした者ということができ、従って」右「贈与は同相手方の労に報いるため相続分以外に特別の利益を付与したものと評価し、特別受益としての持戻義務を否定するのが相当である」としている。

これに対し右第3物件目録13、14の土地については、申立人木村弘への生前贈与を認めたうえ「相手方木村隆の場合とは異なり持戻義務を肯定すべきである」とし、更に同目録15の土地については、申立人木村房江の生前贈与を認め「反対の事情は認められないから特別受益財産として持戻義務を肯定すべきである。」としている。

2 しかし原審記録に表われたところからみても、特別受益としての持戻義務が否定されるのは、被相続人と共に永年に亘つて苦労を共にし、六人の子供(相手方及び他の申立人ら五人)を育てあげ、被相続人と共に家業に精を出し、相続財産の拡大、維持、管理に貢献した被相続人の妻である申立人木村房江でなければならない。これに対して相手方については、その持戻義務が肯定されなければならない。

そもそも原審記録からも明らかな様に本件当事者間においては、別件昭和五三年(家イ)第一二〇号遺産分割事件が広島家裁に係属したところ、途中広島家裁昭和五四年(家イ)第三七九号親族間の紛争調整調停事件が成立したことにより右第一二〇号事件は昭和五四年五月一七日に取下げになつたものである。右成立になつた調停事項の主たるものは、本件相手方の木村隆が本件申立人の木村房江を自宅に引取り同居させて扶養することとし、隆夫婦は老後の身の上にある房江に明るい日常生活が送れるよう双方とも努力するとのものであつたが、結局相手方隆が成立後右条項を拒否した為に本件の遺産分割の再申立となつた次第である(原審記録中家裁調査官○○○○の昭和五五年一月一〇日付遺産分割事件調査報告書、本理由書添付の甲第一号証参照)。

3 したがつて本件の申立人らが最も心をくだいて考えた問題は、母である木村房江がいかに幸せな老後を送れるかということであつたが、これは申立人ら全員が母たる房江の寄与を認めているからに外ならない。この点からみても、申立人房江こそが最も被相続人の遺産の拡大、維持、管理に寄与したものであることは明白であり、かえつて相手方は長男たる立場はあつても何故その持戻義務を否定されるほどの貢献、寄与があつたかは、はなはだ疑わしい。

この点は、昭和五六年四月二二日付大石寿一の審問調書によれば、同人が被相続人は六二歳まで百姓をし、中気で床についてから一三年間は妻の房江が面倒をみていたのであつて、隆(相手方)に余分に財産をやる必要はないと思います。との旨述べている点、昭和五六年六月二三日付調査報告書において申立人沖田富久子が、木村弘、木村隆、井土順子を除いた全員と大石寿一の話し合いの結果、隆を除いた全員の持分を母房江に譲渡し、遺産全部を母に相続させ本籍地である○○町○○に家を建築し、居住させることに決つた。隆の母への仕打ちから隆にこれ以上の相続をさせることは不必要である旨集議一決した。と述べている点、右報告書で申立人河村ナミエ、村井カズエもほぼ同様の意見を述べている点、右報告書における調査官○○○○の所見でも(1)相手方隆を除く相続人(子)はその持分を全部母木村房江に醸渡し、遺産全部を相続させること(2)木村房江は本籍地○○町○○に家を建築し居住させることとの話し合いがなされたことが判明した。としている点、昭和五五年二月五日付家事事件経過票付票によれば、申立人木村弘が遺産を母のものとして母の為家を建てて別居させる意見を述べ、隆以外の相続人も皆それに賛成している点、昭和五五年六月一九日付付票によると、相手方は一〇〇〇万円を引渡せないので遺産の中から一〇〇〇万円を引渡すことで調停を進められたいと述べている点、などを総合的に検討してみても本件遺産への真の寄与者は、申立人木村房江であつて相手方木村隆でないことは明白である。尚因みに相手方が房江に遺産の中から一〇〇〇万円を引渡す旨述べているのは、本件遺産の時価が本件評価額よりはるかに高額なものであることを表わす一つの証左である。

以上からみただけでも本件においては、その寄与分について相手方のそれを認め、特別受益の持戻義務を否定し、申立人戻江については、何の理由づけもなくこれを肯定したのは明らかに事実誤認である。そして寄与分については各相続人について更に審理を尽して明らかにしなければならない点が多く存在すると思料する。又申立人弘の特別受益の持戻義務を肯定した点についても何らの理由づけがなされていない。

尚原審においては、木村弘が申立人となり他の相続人全員が相手方という型で審理がなされたのであるが、原審判に対しては、相手方木村隆を除いた全員が不服として本件即時抗告の申立をしていることを念の為付言する次第である。

三、(被相続人の意思について)

更に被相続人の意思としても、その遺産の三分の二は妻である房江に与える意思であつたことがはつきりしている。この点については甲第二号証を添付したが、これは昭和五六年三月四日付調書の木村弘の陳述の内容6に「父親は生前母親に三分の二をやるという書物があるのですが隆はその書物を出さないのであります」と述べている中の書物といつているものをたまたま写真に納めたものが申立人弘の手にあることが判明した為、その写真をコピーしたものである。ここには被相続人自身の字で「一フデ書キノコシ申候、死シタルノチノ、フドウサンの件一家ノ財産ノ件、三分ノ二ハ房江ノ物、残リハ六人ノ子供ニ分配ノ事」と記してある。尚甲第三号証は、甲第二号証が被相続人の筆跡であることを立証する為の資料である。遺言書としての有効性についての判断は一応置くとしても、被相続人の意思が、妻である房江に三分の二を相続させるものであつたことは明らかである。この点についても差戻しのうえ、その有効性についての判断も含めて審理がなされるべきである。

四、(結語)

以上の様に原審には遺産の評価及び特別受益分の判断について事実誤認、審理不尽、理由不備の違法があり、更に被相続人の意思についても再度の検討がなされなければならないので差戻しのうえ、正式の裁判所における鑑定評価をなし、申立人木村房江が幸せな老後を送れる様に審理が尽されるべきである。

尚、現在も原審記録を調査中であり、更に必要があれば追而準備書面の形で抗告理由の追加をなす予定である。

(別紙二)

第一(抗告理由の追加・補充)

一 (特別受益について)

相手方は、山県郡○○町大字○○字○○○○所在、(1)地番×××番×(2)地目・山林(3)地積・一一四七四平方メートルという土地を現在所有している(原書記録一五八丁目在中の登記簿謄本参照)が、右土地は登記簿上昭和二二年一〇月二一日売買名目で大石寿一から相手方へ所有権移転となつているものである。ところで右土地の実質上の所有権移転の原因は、抗告人木村房江の実家である大石家から同人に贈与すべきものであつたところ、相手方に両親(被相続人及び木村房江)の面倒を見てもらうということで、両親の将来を託して大石家の当主大石森太が大石寿一名義の右土地を相手方へ贈与したものである(尚登記簿上売買となつているのは対税上なしたことで一銭の金銭授受もなかつた)。

この点からみても相手方は、生前特別の受益を受けており今更本件遺産分割において相手方の持戻義務を否定する必要はない、といわざるを得ない。右の点については、昭和五六年四月二二日付大石寿一の審問調書の一三項で明白である。

二 (遺産の評価について)

(一) 相手方は、昭和五二年頃原審審判書第三物件目録2、3、5、6、7、9、10、11の八筆の土地上の立木の極く一部を金七五万円で売却した事実があるが、立木のほんの一部だけで七五万円の価値のある土地について、原審が更に右八筆に四筆を加えた右第三物件目録1ないし12記載の各土地の合計額を六六万八四八一円と評価しているのは余りにも低額すぎるといわざるを得ない。

(二) 本件土地の評価がいかに時価とかけ離れたものであるかを立証する為、甲第四号証及び甲第五号証を添付する。右甲第四、五号証は、広島県が○○○○○線道路特殊改良工事を施行するに当つて○○町○○地区内の土地を取得するに当つて作成した土地調書(甲第四号証)と土地価格表(甲第五号証)であつて特に甲第四号証は、本件抗告人木村房江所有名義の原審判書別紙第三物件目録15記載の土地に関するものである。

そこで因みに甲第五号証の価格に従つて本件遺産となつている土地の中から一部をとり上げて価格を算定してみると、

例えば、

原審判書第一物件目録1記載の宅地五六六・二七平方メートルは二〇二万一五八四円(五六六・二七×三五七〇円 = 二〇二万一五八四円)となり、原審判書での評価額(相続開始時二〇万五三〇七円、分割時三一万一四四七円)の七倍から一〇倍になるし、

原審判書第二物件目録1記載の畑二八四平方メートルは三〇万三八八〇円(二八四×一〇七〇円 = 三〇万三八八〇円)となり、原審判書での評価額(相続開始時七三四二円、分割時一万二六九一円)の実に二三倍から四〇倍になり、

原審判書第三物件目録1記載の山林五九五〇平方メートルは、一七八万五〇〇〇円(五九五〇×三〇〇 = 一七八万五〇〇〇円)となり、原審判書での評価額(相続開始時五万六六五九円)の実に三二倍となつている。

右のとおり本件遺産の評価は、現実の価格と余りにもかけ離れているものである。

三 以上のとおり本件原審判には、特別受益の点及び遺産の評価の点について審理不尽、事実誤認がある。

(別紙三)

(抗告理由の補充)

一、(遺産の評価について)

本件土地の評価がいかに時価とかけ離れたものであるかを立証するため、甲第六ないし第二号証を提出する。

右甲第六、七号証は、広島県が○○○○○線道路改良工事をするため必要な土地を取得するに当つて、本件相続人らと締結した土地売買契約書のうちの抗告人木村房江及び木村弘に関するものであり、甲第八号証は、右についての相続人全員に対する土地取得及び権利消滅補償金算定表である。そして右の土地は原審判書別紙第二物件目録6番○○町大字○○字○○○×××-×番の全面積分と同目録7番同所×××-×番の土地五八七m2のうちの三三二、七四m2に関するものである。そして、甲第九、一〇号証は右×××-×番の土地の残地二五四、六七m2についての広島県と本件相続人間の残地損失補償契約書のうちの抗告人木村房江と木村弘に関するものであり、甲第一一号証は右についての相続人全員に対する残地損失補償金算定表である。

そこで、右各書証により右×××-×番及び×××-×番の土地の評価額を計算すると×××-×番の土地は一七万六、九六〇円となり、×××-×番の土地は現実の売買額が五三万二、三八四円、残地損失補償額が五万二、四〇〇円となる。

しかるに、原審判書の評価は×××-×番(原審判書第二物件目録6番)が相続開始時で三、二〇一円、分割時で一万八、〇五五円となつており、×××-×番(原審判書第二物件目録7番)が相続開始時で三万九、八四五円、分割時で九万六、三五二円となつており、分割時の評価をとつてみても原審判は×××-×番の土地について約一〇分の一、×××-×番の土地についても実際の売買部分の評価で計算すれば、やはり約一〇分の一の評価しかしていないことになり(この点実際売買分と残地補償分とを合計しても約六分の一の評価となる)、原審判には遺産の評価に関しては、はなはだ現実と遊離した事実の誤認があるといわざるを得ない。

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